紅白テキスト合戦

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花/ウォシュレットマン

 私の友人は花が大好きです。

 彼女の家に何度かお邪魔させてもらったことがあるのですが、庭には色とりどりの花がたくさん咲いていて、それらに水をあげる彼女の顔はとても幸福そうでした。私は花にはあまり詳しくなくて、大事な花について彼女に説明をされたのですが、あまり覚えていません。覚えているのは、自分の大切な花について語る彼女の弾んだような声や嬉しそうな表情でした。

 彼女の部屋にはひとつだけ植木鉢がベッドのすぐ横のテーブルに置いてあって、いつも寝る前や起きたあとはその花の花弁に軽くキスをしているらしいです。その花は真っ赤なとても綺麗な花で、彼女が一番大切にしている花だそうです。自分の子供のように、恋人のように彼女はその花に接していました。花に対する感情の向け方は、少し怖いところもありましたが、自分の好きなものにまっすぐ向き合えるということはすばらしいことだと思います。彼女はよく、私も花になりたいなと私に語っていました。

 私も美しい花のように同じところで咲いていたい。
 私も見るひとを幸せな気分にさせられる花になりたい。
 ときには様々な花と一緒に包まれて、誰かの大切なひとへのプレゼントになりたい。
 そう彼女はいつも言っていました。

 そんな彼女は半年ほど前に自殺未遂を起こしました。なんでも自室で自分の頭を金槌で強打したそうです。彼女は今は病院のベッドに横たわって意識不明の状態のまま。共通の友人たちは、どうして彼女は自殺をしようと思ったのだろう、少しでも彼女の苦しみを理解できてあげられたらよかったのに、と悔やんでいました。

 でも、はたして彼女は本当に死にたかっただけなんでしょうか。私にはそうは思えません。彼女はただ植物になりたかっただけなんだと思います。彼女は一生を植物のまま終えたいと思ったんでしょう。たぶんですけど、彼女は今でも幸せなんじゃないでしょうか。美しい花とは、到底言うことできませんけど。

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