紅白テキスト合戦

~VIPでテキストサイトの管理人たちよ、戦え~

 

約束/テキスト仮面

「行けたら行く」

紛れも無い約束だ。時には誠意すら感じる。
問題はその約束が果たされるかどうかであるが、行けたら行く側からしてみれば些細なことだ。守る必要など無いからだ。
約束界において"行けたら行く"とは先手必勝の切り札とされており、後の事象に対してのイエス・ノーを後出しで繰り出すことを可能とする最強の返事である。

また、誘いを断る前提で用いる場合もあり、これはジャパニーズ・キヅカイの精神を宿していると考えられている。
しかし一方で「断るならハッキリ断らんかい!」といった思想を持つ人間も存在し、大きな逆効果をもたらす場合もある。
これに対して「仕事が早く終わったら...」のようなカムフラージュを用いるシーンもあるが、見透かされたときの代償は決して小さくない。




「また来ます」

"行けたら行く"とは性質が異なるが、こちらも守るつもりのない約束だ。

札幌市での話になる。
昔から営業しているという食堂へ行くと、店主の婆さんが一人でラジオを聞いていた。客はいない。厨房とカウンターは対面式になっている。
焼肉定食を頼むと、冷凍していた肉をそのままフライパンへ投入した。
「ウチは客にやってもらってるんだ」と、布巾を手渡される。セルフサービスの台拭きだ。
出来上がった焼肉定食は、味噌汁が美味かった。店に入ってから、婆さんは延々と喋り続けている。俺は飯を食いながら話に付き合う。
そして最後に俺は「また来ます」と言った。俺からしてみれば、また近くに寄ったら行くかもしれない、程度の約束である。

約束というよりは、感謝や礼のような類いだろう。俺は、婆さんの毅然とした営業スタイルが好きだったのだ。行って良かったと思わなければ出ない言葉である。

思い出せる限り、他にも「また来ます」と言ったところが一つだけある。
あわほたる、という店だ。とても良かった。

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